資産運用の出口戦略

資産運用は資産形成期、保守期、取り崩し期と推移しますが、この内、取り崩しに関する運用戦略が出口戦略です。アセット・アロケーションに関する手法として代表的な出口戦略には、債券シフト法と分散投資があります。売却手法としての出口戦略戦略には、定額売却と定率売却があります。この記事ではそれぞれ紹介します。

出口戦略とは?

資産運用の出口戦略

人生の中での資産運用は、現在から死ぬまでの期間が計画期間(プラニングホライズン)となります。運用は、資産形成期、保守期、取り崩し期と推移しますが、この内、取り崩しに関する運用戦略が出口戦略です。資産運用の完結には出口戦略が不可欠です。

出口戦略は重要であるにもかかわらず、情報は不足しています。なぜなら世の中の多くの組織は買い煽りはしますが、出口戦略を語りたがりません。例えば証券会社は投資信託等の資産を投資家に保有させる事で利益を得ますので、資産売却の手法を紹介すると利益が減るため、投資家に敢えて売却の手法を紹介する事は稀でしょう。個人投資家は、自分で出口戦略についての情報を集める必要があります。

参考:一般的な出口戦略

一般的に出口戦略(でぐちせんりゃく、exit strategy)は、軍事的もしくは経済的な損害が続く状況から損失・被害を最小限にして撤退する戦略を指します。ベトナム戦争時にアメリカ国防総省内で使用されたのが始まりとされています。

出口戦略(Wikipedia)

※この記事では、前者の「資産運用の出口戦略」を扱います。

債券シフト法 .VS. 分散投資

資産運用の出口では、資産配分を変更する、具体的には国内債券の保有比率を上げる(債券シフトする)べきだという考えと、債券への集中投資は避けて分散投資をするべきという2つの考えがあります。一般的には債券シフト法が主流となっていますが、私個人的に日本人の投資家は、年齢にかかわらず分散投資を行う方が良いと考えています。

債券シフト法

債券シフト法は、年齢と共にポートフォリオの債券比率を増やすという手法です。債券シフト法の主流は「債券の比率を年齢と同じにする」という進め方です。例えば30歳であれば債券比率が30%で、残りの70%が株式です。60歳であれば債券60%、株式40%です。なお、ここでの債券は、国内債券を意味しています。(外国の債券・外貨建て債券ではありません。)

ウォール街のランダム・ウォーカーを始めとする米国の古典的投資教本では、年齢と共に債券比率を高めるという手法が紹介されています。このように有名な手法ですので、多くの投資家が実践していると予想されます。

なお債券シフト法は、資産運用の出口で安全資産とされる債券に資産を移すことで株価暴落による資産毀損リスクを低減します。逆に言えば、国債が安全と言い切れない国では、債券への集中投資はリスクが増えるため、債券シフト法はやや使い勝手が悪い手法になります。また、資産運用の出口が長い(長寿の)国では、リスク資産による成長余地が少なくなるため、債券シフト法のメリットが薄れます。

分散投資

分散投資は、「卵は1つのカゴに盛るな」という投資格言のもと、多くの資産に分散して投資する事で、1つの資産の値下がりの悪影響を最低限にとどめようとする手法です。

債券シフト法を実践する場合、国内債券への集中投資は避けられません。古典的投資教本が想定する20世紀の米国人は、それ(米国債への集中投資)で良かったのでしょうが、21世紀の日本人にはあまり勧められるものではありません。日本の債券は決して安全ではなく、集中投資の対象にはなり得ないからです。

広く知られている通り、日本の政府債務の膨張は深刻で、残高は対GDP比で232.4%(2016年)に達しています。財務省の国際比較でも、突出して高い値となっています。ただし日本国債は日本銀行を筆頭に国内でほぼ安定して保有されており、対外債務の多かったギリシャのように簡単には破綻しません。このように破綻確率は低いものの、債務膨張は永遠に続けられずどこかで破綻します。そして対内債務型の財政破綻は深刻なインフレを招く事が知られています。財政破綻もしくはそれに近いようなインフレが起これば、国債価格は急落する事でしょう。

政府債務の膨張が進めばいつかは来る、このような状況下で個人投資家が資産の大部分を毀損しないためには、国内債券以外の資産への分散投資が不可欠です。国内債券の代わりになるべく多種多様な資産を保有する事で、1資産の価格下落の影響を最小限に抑えます。

定額売却 .VS. 定率売却

定額売却

一定額を売却する手法です。積立時には定口購入よりも有利とされるドル・コスト平均法の逆に相当し、不利な売却手法の1つです。とは言え売却額が一定であるため、安定したキャッシュフローが実現します。リスク資産を定額売却する場合、資産が枯渇する時期が読めなくというデメリットもあります。

定額売却は有利な売却手法ではありませんが、手法は充実しています。例えば毎月分配型投資信託を保有すれば、毎月ある程度一定のキャッシュ・フローが実現します。SBI証券の投資信託定期売却サービスのような、定額売却サービスもあります。

定率売却

定率売却は、毎月一定比率の資産を売却する手法です。

定率売却では、リスク資産が高値圏にある時は多く売り、安値圏にある時の売却額は少な目になります。資産運用の理想「安く買って高く売る」を実現しやすい売却手法で、良い手法だと考えられます。ただし定額売却のようにツールが充実していません。また、リスク資産の値動きによって売却額が安定しないというデメリットがあります。

Q. 株で損する事はありますか?

先日株式投資について聞かれ、回答しました。聞かれた内容と、私の意見を問答集として投稿します。

Q. 株で損する事はありますか?

A. はい。株で損する事があります。

株は預貯金と違い、値段が上下します。そのため、株式投資では損をする可能性があります。

ただし株での損失額を小さくするためにいくつかの方法があります。保有額を少額にする、下がりにくい株を買う、下がりにくい買い方をする、などの方法が有効です。下がりにくい株とは、生活必需品等の需要が安定している分野の株です。下がりにくい買い方とは、多くの種類の株を持つ事で1銘柄の下落の影響を軽減する「分散投資」と呼ばれる手法が有名です。

Q. 最初はどれくらいの金額から始めれば良いですか?

A. 投資の最初は、5万円以内が良いでしょう。

リスク資産の値動きは、体感しなければ良く分からない事があります。最初は少額から始めるのが良いでしょう。退職金の大部分をいきなりリスク資産に投じて大失敗する人もいますが、そうならないように基本は少額から始めます。そして様子を見つつ、運用の知識をつけながら運用規模を増やしていくのが無難です。

株式の銘柄には、数千円から数万円の少額から買える株も多くあります。具体的な銘柄は、単元株価格下位ランキング等を利用できます。

単元株価格下位 Yahoo!ファイナンス

Q. 有名な所の株を買ったら良いですか?

A. 最初は勉強のために知っている銘柄・興味を持てる銘柄を持つのが良いでしょう。

ただし、有名企業の株は多くの人が購入するため割高になり、投資妙味が薄れている事が少なくありません。慣れてきたら知らない企業を研究し、良さそうであれば買うのが良いでしょう。

Q. 株を買うのは馬券を買うのと同じ感覚ですか?

A. いえ、金額や無価値になる確率が異なります。

馬券は100円から買えますが、株は少し高額で、最低でも数千円程度からの投資が必要です。ただしその一方で、競馬では負けると直ちに馬券が紙切れになりますが、株券は(値下がりはしますが)無価値になる事はあまり多くはありません。株式会社はそう頻繁には潰れないからです。

マルチファクターモデルに学ぶ「株価を説明する因子」 どうして株価は動くのか?

株価はどのようなモノから影響を受け、生成されるのでしょうか。株価を説明するマルチファクターモデルにて、利用されている因子を「外的ファクター」「抽出されたファクター」「企業の特性」の3種類に大別し、紹介します。

マルチファクターモデルとは?

マルチファクターモデルは、株式や債券等のリスク・リターンの形成要因を、複数のファクターにより表す統計的モデルです。

マルチファクターモデルとは、モダン・ポートフォリオ理論が全盛期だった一九七〇年代に、米国のバー・ローゼンバーグ氏らが研究の副産物として実用化した統計モデルだが、ポートフォリオのリスクを数十のファクター(銘柄の一般的な属性や業種など)で説明するソフトウェアだ。現在もバーラ(BARRA)モデルが運用業界のデファクト・スタンダードだが、バーラ・モデル以外のポートフォリオ分析ツールもある。但し、何れもプロ用で、データ代を含めて、毎月の使用料が数十万円単位になるのが難点だ。

マルチファクターモデルで何ができるか。たとえば、TOPIXをベンチマークとして運用している日本株のファンドマネジャーのポートフォリオが、TOPIXに対してどのような相対的なリスク(「推定トラッキングエラー」と呼ばれる)を持っているかを計算できる。

出典:第204回 ファンドマネジャーのトレーニング・プログラムを考える(山崎元「ホンネの投資教室」@楽天証券

マルチファクターモデルの株価説明因子

株価の説明に寄与する因子は、大別すると「外的ファクター」「抽出されたファクター」「企業の特性」の3種類があります。

外的ファクター

証券から見て外生的な変数は、株価の説明に利用されます。

具体的には、国内総生産(GDP)や消費者物価指数(CPI)、失業率や鉱工業生産指数、等があります。その他、月齢や太陽の黒点数を利用する事もあります。

外的ファクターは、トップダウンアプローチを重視する投資家が重宝するファクターです。

特に個別株運用を行う投資家は、企業分析に時間をかけがちです。ですが企業業績は外部変数の動向に左右されます。マルチファクターモデルは、広い視野を持ち、投資環境の良し悪しを吟味する大切さを教えてくれます。

抽出されたファクター

既知の情報から抽出したファクターも、株価の説明に利用されます。

例えば株価指数や業種別株価指数があります。その他、直近高値からの経過日数や、2つの株の収益率の比、等が使われる事があります。

抽出されたファクターは、テクニカル重視の投資家が重宝するファクターです。

株価の値動きは需給で決まります。その株を欲しがる人が増えれば株価は上がり、売りたい人が増えれば株価は下がります。マルチファクターモデルは、指数の値動きから需給を読み取り、投資行動を選択する大切さを教えてくれます。

企業の特性

当然ながら企業特性は、株価変動の一因になります。

PERやPBR、配当利回りや収益予想や、その他企業に特有の値が使われます。

企業の特性は、ファンダメンタルズ重視の投資家が重宝するファクターです。

結局の所、割安な成長株の株価は上がります。マルチファクターモデルは、企業を理解しその未来を予測する事で、投資家は利益を得るという、基本的な事実を教えてくれます。

論理的な投資家になるために

投資家として、利益のために株価を追っかけ回す事は勿論重要です。それに加えて、ただ株価を追うだけではなく、論理的な根拠を持ち、現象の解釈を試みる事もやはり大切です。

定期的に、上記の各種株価変動因子・ファクターを点検してみて、効率的な資産運用を行えるようにポートフォリオの調整をするのも良いでしょう。

関連

マルチファクターモデルに関連する外部記事を紹介しておきます。

ローゼンバーグ型マルチファクターモデル(通称 BARRA モデル)

下記の記事では、図が充実しており、マルチファクターモデルについての理解を深める事ができます。

ローゼンバーグ型マルチファクターモデル(通称 BARRA モデル)は、 機関投資家の間に広く普及しているポートフォリオ最適化モデルです。 エクスポージャ行列からフィッティングを行ってファクターリターンを求めることを過去数十日分繰り返し、 蓄積したファクターリターンの分散と最新のエクスポージャおよびスペシフィックリスクを入力として、 最適化(二次計画法)によってポートフォリオを求めます。

出典:マルチファクターモデル(FIOPT)

ファーマ-フレンチの3ファクターモデル

当記事では、マルチファクターモデルの因子を「外的ファクター」「抽出されたファクター」「企業の特性」の3ファクターに分類しました。この3ファクターは、ファーマ-フレンチの3ファクターモデルの3ファクター「市場ポートフォリオ(時価総額加重平均型株価指数)」「時価総額」「簿価時価比率(PBRの逆数)」とは異なります。

リスク資産への長期投資で必ず負ける場合とは?

プラスリターンの金融商品を長期運用すれば、長い目で見たら儲かりそうだと考えてしまう投資家は多くいます。ところが現実では、必ずしも儲かりません。特にリスクを取り過ぎた資産運用を長期間継続すれば、儲かるどころか必ず負ける事になってしまいます。

シミュレーション

ハイリスク・ハイリターンな金融商品

例えば四半期の平均リターン3%・リスク30%の金融商品を考えます。

この金融商品の年間でのリターン期待値は12%になります。ハイリスク・ハイリターンな金融商品に分類されます。過去記事リスクの取り過ぎは投資成果にどのように影響するか? レバレッジ運用はほどほどに?では、赤線で表現した金融商品に相当します。

金融商品の経時変化

下図は、その金融商品でのリターンの確率分布が、時間とともにどのように変化するかを示した乱数シミュレーションです。

動画中のave.は平均リターン、maxは最も運が良い投資家のリターンです。loserは、このリスク・リターンで運用する投資家が確率的に、10,000人中の何人が元本割れとなるかを示す数値です。

平均リターンは上がり、敗者は増える

この金融商品は、期中リターンがプラス(平均リターン3%)ですので、平均するとリターンは増えていきます。運が良いと大きく資産を増やす事ができ、最後には72倍とした投資家が現れます。

一方で敗者の数も時間とともに増加する傾向にあります。実はこの金融商品は、平均するとプラスリターンにもかかわらず、リスクが大きいために、長期投資をすれば必ず負ける(元本割れする)と言えます。(ε-δ論法で時間を長くとれば勝率をどこまでも小さくできます。)

なお、この金融商品の期待成長率を、ツールリスク資産の最適保有比率計算v2.0.xlsmを用いて数値計算したところ-1.8%とマイナス値が出てきました。

リスク過多の結果と対策

リスク過多の長期投資は必ず負ける

リスク過多の状態で長期投資を行うと、必ず負けます。

確かに良い投資(適切な運用)を行えば時間を味方にできるのですが、逆に悪い投資(不適切な運用)を行う際は時間は投資家の敵となるわけです。世間では「長期投資は良い事だ」という風潮がありますが、長期投資の良し悪しは運用手法抜きには語れません。

時間を味方にできるように、リスクを抑え、着実に成長できような手堅い資産運用を心がけたいものです。

リスクを減らす無リスク資産

リスクを減らした運用を行うためには、ポートフォリオに無リスク資産を組み入れる事が有効です。

無リスク資産の組み入れにより、ポートフォリオは安定化します。仮に恐慌が訪れてリスク資産が大きく減ったとしても、投資家は無リスク資産を投資元本として再起・復活が可能になります。

シミュレーションのソースコード

乱数は前回同様でROOTのgRandom->Gaus関数を利用し、PAWでプロットしました。

リスクの取り過ぎは投資成果にどのように影響するか? レバレッジ運用はほどほどに?

極端なレバレッジ運用等に起因するリスクの取り過ぎは、投資の勝率を引き下げる事で、投資成果に悪影響します。その様子を乱数シミュレーションで示しました。紹介します。

レバレッジ運用

少ない資本金で大きな取引をする事をレバレッジ運用と呼びます。

例えば四半期でリターン1%・リスク10%の金融商品があったとします。この金融商品を使った運用では理論上、2倍のレバレッジをかけると、リターン2%・リスク20%となり、3倍のレバレッジではリターン3%・リスク30%が実現します。

このようにレバレッジはリターンの期待値を引き上げます。一見すると素晴らしい仕組みです。ところがこの金融商品の場合、レバレッジによりリスクが過大となるため勝率が下がり、投資成果が期待できなくなってきます。

シミュレーション

下図は乱数シミュレーションです。リスク資産のリターン分布がどのように経時変化するかをプロットしました。

青:リターン1%(年利4%) リスク10%
緑:リターン2%(年利8%) リスク20%
赤:リターン3%(年利12%) リスク30%

横軸はリターン(倍)です。tは経った時間を示します。

レバレッジをかけると平均リターンは確かに上がる

プラスリターンの金融商品をレバレッジ運用すると、確かに平均リターンは大きくなります。シミュレーションでも平均値(Mean)は上がっています。

時間が経った箇所ではヒストグラムに収まらなくなってしまい正しい平均値が出ていませんが、実際には高いレバレッジは高い平均リターンを生み出します。この現象は、ハイリスク投資では大勝ちした少数の投資家が、全投資家のリターンの平均値を上方に牽引するために起こります。

レバレッジをかけると負けやすくなる

レバレッジをかけると、負けやすくなります。シミュレーションでも、ハイレバレッジの赤線が最も負け、緑、青はこの順に極端な敗者が少なくなっています。

ハイリスク投資では負けている投資家は負け続け、死屍累々となります。あっという間に負けます。そして一度負けた投資家が平均値へ復活する確率は極めて小さく、負ける投資家は増え続けます。

ハイリスク投資で大勝ちした少数の投資家の背後には、多数の負組投資家がいるのです。シミュレーションにおいて、年利12%に惹かれた赤組投資家の多くが、元本を半分以下に減らす様子は目に焼き付けておいて損はありません。

無難な運用をしたいのであれば、レバレッジをかけない方が良いでしょう。

まとめ

レバレッジ運用ではリターンの期待値は上がります。ところがそれは、一部の大勝投資家が期待値を引き上げただけであり、多くの投資家は負けて元本を失います。このようにリスクの取り過ぎは、投資の勝率を引き下げる事で、投資成果に悪影響します。無難な運用をしたいのであれば、レバレッジをかけない方が良いでしょう。

シミュレーションのソースコード

私個人の覚書を兼ね、コードを掲載しておきます。ROOTのgRandom->Gaus関数で乱数を生成し、coutで各人の資産推移を取得(ファイル名aaa.txtは1倍 bbb.txtが2倍 ccc.txtが3倍レバレッジ)、PAWマクロでプロットしました。