2065年までの労働力人口の減少の程度と、企業の業績や世間のサービス動向

労働力人口の大幅減

少子高齢化により労働力人口は大きく減る見通しです。

下図は将来の労働力人口の予測です。みずほ総合研究所により推計されました。予想される人口推移と、世代別で労働者の比率が一定であると仮定し計算したようです。労働力人口は、2016年が6,648万人であったのに対して、2065年には4,000万人を割り込むまで減少すると推計されます。4割減です。シニア世代の労働時間が増える等の変化が無い限り、世間の働き手は大きく減る見通しとなっています。

画像出典:少子高齢化で労働力人口は4割減 みずほ総合研究所

※労働力率とは、人口に占める労働力人口の割合を指しています。

企業の業績はどうなるか

労働力人口の大幅減により、日本企業の業績はどうなるかについて考えを述べます。

まず、労働環境が悪い企業は、労働力が確保できなくなり、製品を提供できなくなり、淘汰されます。

ただし労働力人口の減少は企業にとって悪い事ばかりではありません。需給の視点からは、1企業あたりの売上は上がると予想されます。もちろん日本の人口は減りますのでモノ・サービスの需要は減っていきます。ところが高齢化による労働人口の減少により、供給が需要以上に減りますので、企業はモノ・サービスを売りやすくなります。

サービスの低下とインフレ

労働力人口の減少は、サービスの低下を招きます。働き手が少なくなれば、企業は今までのような手厚いもてなしを行う時間を確保できなくなるからです。また、人件費の上昇はモノ・サービスの値段を引き上げますので、インフレに繋がります。

ちなみにジンバブエのハイパーインフレは、黒人が白人から農地等を奪還した事で労働生産性が低下してしまい、モノがなくなったため需給の関係でインフレが始まりました。労働力人口の減少もモノの供給を小さくしますので、インフレの構造として似たものがあります。

ヘリコプターマネー ばら撒き政策はどのように実施されるのか?

日銀による金融政策の行き詰まりに伴い、話題になると考えられるヘリコプターマネー政策について投稿します。

ヘリコプターマネーとは?

ヘリコプターマネーは、ばら撒き政策を意味します。

ヘリコプターでお金をばら撒くように、政府が国民に対してお金をばら撒き、経済の活性化を目論みます。

従来の緩和政策との違い

ヘリコプターマネー政策は、従来の(証券市場を介する)間接的な緩和マネーの供給とは異なり、国民に対して直接ばら撒く形式の政策です。

従来の間接的な緩和マネーの供給

経済の活性化を目的とした政策としては、既に日銀によるマイナス金利政策の実施や、国債・ETFの購入を通して、市場にお金を回すという間接的な取り組みがあります。

ところが、これは効果が薄いという指摘が出始めています。インフレ目標である2%の達成が、現時点で絶望的である事は、誰が見ても明らかです。

ヘリコプターマネーによる直接的な緩和マネーの供給

ところが、政府がヘリコプターマネー政策で証券市場を介さずに、国民に対して直接ばら撒けば、デフレからの脱却に大きな効果が出ます。

政府にデフレ脱却のための次の1手があるとすれば、国債を発行しそのお金をばら撒く政策です。同じく日銀に次の1手があるとすれば、刷った紙幣を日本政府の口座に入金し、そのお金を政府がばら撒く政策です。

別称

ヘリコプターマネーは「ヘリマネ」や「ヘリマネー」と略されることがあります。

ばら撒きの種別

ばら撒きには、いくつかのストーリーがあります。そのため、ヘリコプターマネーという単語そのものの定義はあやふやで、論者により異なります。(ヘリコプターマネーという単語に出会った際は、文脈からが何をそう呼んでいるのかを判断しなければなりません。)

国債発行を財源とする場合

1つ目のストーリーは、政府が国債を刷り、得たお金を国民にばら撒くパターンです。

メリット

国債発行を財源とする場合は、法律上の制約が少なくなっています。また現在は歴史的低金利の状態にあるため、国債発行の負担が小さく、実現しやすい現実的な方法です。

日銀が日本国債を低金利で買い続けるという条件下では、有効な政策だと言う経済学者もいます。

デメリット

一方で、国債発行によるヘリコプターマネー政策にはデメリットもあります。

日銀が国債を買わなくなれば財政破綻

国債を刷りヘリコプターマネー政策を行えば、政府の財政赤字が巨額になり、財政の更なる悪化が進行します。

また、日銀が国債を買い続ける事をしなくなった場合に、積み重なった借金を返せなくなり財政破綻し、深刻なインフレと金利高騰を招きます。

日銀が国債を買い続けた場合は、経済のコントロールが不能に

逆に財政破綻させないために、日銀は低金利で国債を買い続ける選択肢しか無くなるかも知れません。金利を上げられなくなった場合は、日銀は金利の調整で景気をコントロールできなくなります。

場合によってはバブルを招き、実力不相応な水準まで株価・地価が高騰した後に暴落します。暴落せず暴騰を続ければそれはハイパーインフレです。

実際に、金利による景気のコントロールができなくなった事例があります。例えば日本経済は、ブラックマンデー後に平成バブルが発生・破綻し、深刻かつ長期的に景気低迷しました。これはルーブル合意(1987年)での米国のドル安への配慮から、利上げが遅れたために発生した悲劇です。

このように、ヘリコプターマネー政策により中央銀行が利上げが出来なくなり、経済のコントロールを失う可能性があります。ヘリコプターマネー政策は危険な政策の1つです。

既にヘリコプターマネー状態?

量的緩和政策という建前のもと、日銀は金融機関から国債を買っています。後述の通り、日本の財政赤字は深刻で、返済する気があるとは思えません。このことから、既にヘリコプターマネー状態であると表現する事も可能です。

日銀が刷ったお金を使う場合

2つ目のヘリコプターマネーのストーリーは、日銀がお金を刷り、政府の口座に入金し、そしてそれを政府が国民にばら撒くパターンです。

すぐには実現しない

日銀が刷ったお金を政府が使う場合、政府の赤字国債の発行が不要です。ただし、すぐには実現しません。財政法5条に抵触するためです。少なくとも国会の議決が必要ですので、実現には少し時間がかかります。

財政法 第五条  すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。

どのようにばら撒かれるか?

ヘリコプターマネー政策が実施されれば、上記の財源で国民に対してお金のばら撒きが行われると予想されます。

このばらまきの形式は、様々なパターンが考えられますが、直接的なばら撒きと間接的なばら撒きに分類できます。

個人へのばら撒き

個人へのばら撒きは、国民がお金(またはそれに相当するモノ)を受け取る形式のばら撒きです。

かつての地域振興券(1999年)のようなものや、子ども手当・介護手当のような「○○手当」「○○給付金」といった条件付きでの配布が考えられます。

社会へのばら撒き

社会へのばら撒きは、国民の生活を向上させる公共事業や社会福祉を通したばら撒きです。

交通に関しては、リニア新幹線の早期実現へ向けての公的資金の投入をはじめとした、各種方面へのばら撒きが考えられます。

かつては日本列島改造論(1972年/田中角栄)がありましたが、この政策は地価・物価上昇とインフレが社会問題化し、オイルショック(1973年)で頓挫しています。

政策の弊害は?

ヘリコプターマネー政策には、いくつかの弊害があります。通貨価値の下落や、日本の財政赤字の悪化が心配されます。もしもばら撒きが度を越せば、ハイパーインフレの危険があります。

通貨価値の下落

インフレすなわち通貨価値の下落は、ヘリコプターマネー政策の弊害として挙げられます。

お金がばら撒かれれば、お金の希少性が下がり、そしてお金の価値が下がります。結果としてインフレが起こります。インフレは政府の目標でありますが、国民が持つ預貯金の価値を下げるため、多くの人々が蓄えを毀損し、事実上貧しくなります。

とは言え、名目値では国民は損をしないため、この弊害は表出しにくく、政治家は政策を取りやすいと考えられます。

日本国の財政赤字の悪化

ヘリコプターマネーは、財政赤字を深刻化させます。

既に深刻な財政赤字

現時点で既に、日本国の巨額の財政赤字は深刻です。例えば2015年度は税収54.0兆円に対し、歳出は98.8兆円の大きな赤字でした。国債は38.5兆円発行しています。健全な状態からは程遠い状態です。

下図は投資環境マンスリー2016年4月号(emaxis.muam.jp)の7ページで取得した財政収支の推移です。

NihonZaiseiSyushi1970_2015

紫が歳出の推移で、緑が税収の推移です。長期的に歳出は増え続け、財政赤字は年々深刻になっています。

ヘリコプターマネーで財政赤字は改善しない

ヘリコプターマネーにより、例え日銀が政府の口座に刷ったお金を入金したとしても、長期的には財政赤字は更に深刻化するはずです。

なぜなら、第一に政治家は財源が確保された途端に無駄遣いを始めます。第二にインフレで通貨価値が薄まった場合に、同じサービスの提供でも多くのお金が必要になります。

このようにして、ヘリコプターマネーは財政赤字を更に深刻化させると予想されます。

破滅的なインフレ

もし失政により財政赤字の深刻化があれば、ヘリコプターマネーが継続します。そしてどこかで破綻し、お金を刷り続けなけれならない事態となれば、それは破滅的なインフレを招きます。

通貨価値の暴落

お札を刷り過ぎてしまった場合、日本円が通貨としての信用を失います。信用を失った通貨は売りを浴び、価値を失います。

結果として、破滅的なインフレを招きます。

国内債務デフォルトのインフレは深刻

特に日本国は財政破綻のインフレが深刻になると予想されます。日本国債の多くは国内で保有されています。そして統計上、国内債務デフォルトの方が、対外債務デフォルトよりも高いインフレが起きています。

世界のデフォルト経験国家の平均インフレ率によれば破綻した年の物価上昇率は、国内債務デフォルトで171.2%、対外債務デフォルトは33.4%です。

国内向けの債務は新規に通貨を発行して返済できるため、紙幣が刷られまくるわけです。対外債務であれば、紙幣を刷っても為替レートが不利になる事が加味され、返済額は減らないので、刷られずにインフレは比較的軽微です。

参考:ジンバブエのハイパーインフレ

紙幣を刷って破綻した例としては、ジンバブエが有名です。

当時のジンバブエはモノが足りなくなりインフレ基調ではありましたが、紙幣を刷った事でインフレの悪化に拍車がかかっています。紙幣を刷り続けた様子の詳細が、ジンバブエ・ドルのマネーサプライの項目に記述されています。

ヘリコプターマネーと資産運用

ヘリコプターマネー政策が行われる場合、資産運用にはいくつかの影響が出ると考えられます。

不動産

ヘリコプターマネーは不動産に上昇圧力をかけます。

歴史的にも、緩和政策でダブついたお金は不動産に向かう事が多くなっています。ヘリコプターマネーでお金が溢れれば、不動産価格が上昇すると予想されます。

だだしそれは、不動産価格が上がったのではなく、通貨の価値が下がっただけだという見方もできます。投資家が豊かになれる保証はありません。

国内株式

ヘリコプターマネーは国内株式に上昇圧力をかけます。

経済の活性化と株価上昇

ばら撒きが行われれば、そのお金で財やサービスを購入する人が増えます。

所得が増えれば支出が増えます。この現象は所得効果と呼ばれています。その結果として多くの企業の利益が向上し、株価は上昇すると考えられます。このように、適切なばら撒きは企業に良い影響を与えます。

所得効果

過度なばら撒きとその弊害

適切なばら撒きは経済を活性化させますが、その一方で過度なばら撒きが行われれば、企業は役に立たないゴミのような商品ばかりを大量生産し始めます。近年では中国による粗悪な鋼材が有名です。

ばら撒き政策により生産されたゴミの山は負の遺産として、後世の人々を苦しめる事になるでしょう。バブル崩壊後は、過剰な設備が大きな問題になります。

バブル経済の形成と崩壊

海外資産

ヘリコプターマネーで海外資産の価値は上がります。

通貨安と海外資産価値の上昇

ばら撒きにより日本円の価値が薄まれば、通貨安になり、海外資産の価値が上がります。

円キャリートレードに注意

日本円の価値が薄まると予想された時、それを見越した円キャリートレード(円を売り海外資産で運用した後、円を買い戻す投資)が横行すると考えられます。

この場合、円キャリートレードを行う投資家は儲かるかも知れませんが、日本の富は増えません。

海外の例では、2015年頃に中国人による爆買いが話題になりましたが、これは中国のばら撒きが日本に流出した事が一因でした。この中国のばら撒きの富の流出は、中国で問題になりました。

同様に日本での不適切なばら撒きは、日本を豊かにはせず、外国を豊かにする事がありますので注意が必要です。

また、円キャリートレードは逆流・巻き返しが起こる事があります。その場合は、急激な円高が発生し、日本の輸出企業の業績を悪化させる事になります。例えば2008年リーマン・ショック時の円高は、ゼロ金利政策を受けて進行していた円キャリートレードの巻き返しが一因でした。

リーマン・ショック(2008年)前後の米ドル/円為替チャート 円高はどう進行したか?

国内債券

ヘリコプターマネーは国内債券投資には悪影響します。

通貨価値の毀損

ばら撒きが行われれば、円の通貨価値が薄まります。通貨価値の毀損は、国内債券の魅力を低減させます。他の資産クラスを利用した資産運用の方が魅力的となるため、ヘリコプターマネーは国内債券投資に悪影響します。

金利の低下

通貨価値の毀損に加えて、「財政破綻を防ぐため」でしたり「経済の活性化のため」に金利を低く抑え続ければ、国内債券から魅力的な利金が得られません。

このようにヘリコプターマネー政策下では、国内債券投資は魅力を失うと予想されます。

参考記事

ロイターのコラムに参考になる記事が投稿されています。

コラム:ヘリコプターマネーの悲劇=佐々木融氏(2016/3/25)
コラム:日本は先進国初の「ヘリコプター・マネー」発動か(2015/1/5)

また、投資環境マンスリー2016年5月号(MUFG)は、5ページにヘリコプターマネー論について掲載されています。