無リスク資産への投資

無リスク資産の活用は、資産運用の柔軟性と効率を向上させます。

無リスク資産は、将来的にリスク資産の購入に利用する事でポートフォリオ全体の成長性を高めます。無リスク資産を含めた資産全体の成長こそが、投資家にとって最も興味のある指標です。特に長期運用において、無リスク資産を活用しリスク資産のリスクの大小をコントロールする事は重要です。

無リスク資産とは?

無リスク資産(Risk-free Asset)は、元本が保証された安全資産を意味します。

収益が確定的な資産は、リスクが無いために「無リスク資産」と呼ばれます。通常無リスク資産は預貯金を指しますが、個人向け国債を事実上の無リスク資産と考える事もできます。

無リスク資産の対義語はリスク資産です。リスク資産の収益は不確定で、収益分布の広がり具合を表す指標であるリスク(標準偏差)が計算されます。

無リスク資産への投資

無リスク資産の利用は、有利な資産運用に繋がります。

無リスク資産を利用した、効率的フロンティアの拡張

無リスク資産は、有利なリスク・リターンの組み合わせを手に入れる際に活躍します。

例えばポートフォリオのリスク・リターンの組み合わせを考えます。もしもリスク資産のみでポートフォリオを構成するならば、望ましいリスク・リターンの組み合わせ(リスクが同じならばリターンが大きい、または、リターンが同じならばリスクが小さい)は、リスク・リターンダイアグラム上で曲線を描きます。この曲線は効率的フロンティア曲線と呼ばれます。

ところが、無リスク資産を組み合わせれば、この効率的フロンティアは拡張され、直線になります。下図はその様子です。無リスク資産のリスク・リターン(点 r_{f})から効率的フロンティア曲線へ引いた接線が、拡張された効率的フロンティアです。ここで r_{f} は、無リスク資産(Risk Free Asset)の金利を指しています。

この拡張された効率的フロンティアの直線は、資本市場線(Capital Market Line, CML)とも呼ばれています。

画像出典:ファンド定理(リンク切れ)

このように、無リスク資産の利用は、より有利なリスク・リターンの組み合わせを手に入れるために大変有用です。投資家が興味を持つべきは、資本市場線です。

投資元本確保による、高い成長性の享受

無リスク資産への投資はポートフォリオの成長性を高めます。

とは言え、成長の程度はパラメータに依存します。例えば今、リスク資産のリターンは、平均4%、標準偏差は22%、無リスク資産の金利は1%であったとして考えます。

下図は、この環境下での、リスク資産への投資比率別の期待成長率です。横軸がリスク資産への投資比率、縦軸が期待できる資産の成長率です。

リスク資産の組み入れ比率が高くなり、70%を超えてきたあたりから、ポートフォリオの成長性が悪くなる様子が見て取れます。リスク資産を持ちすぎた場合、それが大きく下落した場合に投資元本を失います。元本が小さくなった場合、その分それ以降の上昇相場の恩恵を享受できなくなります。このような過程から、リスク資産を大きく持つ資産運用は、資産の成長性が低くなります。

一方で、もしも無リスク資産を一定の比率で保有していた場合、それを投資元本として活用する事で投資家は再起が可能です。更にこの再起では、リスク資産が値下がりした局面で買い付けができる(安く買える)ため、成長性が高まります。

なお、無リスク資産とリスク資産との資産の移動は、リバランス(rebalance)や、ボラティリティの出し入れ(pumping)と呼ばれる投資テクニックとして知られています。

リスクを取り過ぎた運用を避けるために

リスクを取り過ぎた運用を避けるために、無リスク資産の活用が大切です。

リスクを取り過ぎた運用の弊害は、下記の通り、いくつかの記事で既に紹介しました。無リスク資産への投資によって、リスク資産のリスクの大小をコントロールできます。特に長期運用において、リスクのコントロールは重要です。

リスク資産への長期投資で必ず負ける場合とは?

プラスリターンの金融商品を長期運用すれば、長い目で見たら儲かりそうだと考えてしまう投資家は多くいます。ところが現実では、必ずしも儲かりません。特にリスクを取り過ぎた資産運用を長期間継続すれば、儲かるどころか必ず負ける事になってしまいます。

シミュレーション

ハイリスク・ハイリターンな金融商品

例えば四半期の平均リターン3%・リスク30%の金融商品を考えます。

この金融商品の年間でのリターン期待値は12%になります。ハイリスク・ハイリターンな金融商品に分類されます。過去記事リスクの取り過ぎは投資成果にどのように影響するか? レバレッジ運用はほどほどに?では、赤線で表現した金融商品に相当します。

金融商品の経時変化

下図は、その金融商品でのリターンの確率分布が、時間とともにどのように変化するかを示した乱数シミュレーションです。

動画中のave.は平均リターン、maxは最も運が良い投資家のリターンです。loserは、このリスク・リターンで運用する投資家が確率的に、10,000人中の何人が元本割れとなるかを示す数値です。

平均リターンは上がり、敗者は増える

この金融商品は、期中リターンがプラス(平均リターン3%)ですので、平均するとリターンは増えていきます。運が良いと大きく資産を増やす事ができ、最後には72倍とした投資家が現れます。

一方で敗者の数も時間とともに増加する傾向にあります。実はこの金融商品は、平均するとプラスリターンにもかかわらず、リスクが大きいために、長期投資をすれば必ず負ける(元本割れする)と言えます。(ε-δ論法で時間を長くとれば勝率をどこまでも小さくできます。)

なお、この金融商品の期待成長率を、ツールリスク資産の最適保有比率計算v2.0.xlsmを用いて数値計算したところ-1.8%とマイナス値が出てきました。

リスク過多の結果と対策

リスク過多の長期投資は必ず負ける

リスク過多の状態で長期投資を行うと、必ず負けます。

確かに良い投資(適切な運用)を行えば時間を味方にできるのですが、逆に悪い投資(不適切な運用)を行う際は時間は投資家の敵となるわけです。世間では「長期投資は良い事だ」という風潮がありますが、長期投資の良し悪しは運用手法抜きには語れません。

時間を味方にできるように、リスクを抑え、着実に成長できような手堅い資産運用を心がけたいものです。

リスクを減らす無リスク資産

リスクを減らした運用を行うためには、ポートフォリオに無リスク資産を組み入れる事が有効です。

無リスク資産の組み入れにより、ポートフォリオは安定化します。仮に恐慌が訪れてリスク資産が大きく減ったとしても、投資家は無リスク資産を投資元本として再起・復活が可能になります。

シミュレーションのソースコード

乱数は前回同様でROOTのgRandom->Gaus関数を利用し、PAWでプロットしました。

リスクの取り過ぎは投資成果にどのように影響するか? レバレッジ運用はほどほどに?

極端なレバレッジ運用等に起因するリスクの取り過ぎは、投資の勝率を引き下げる事で、投資成果に悪影響します。その様子を乱数シミュレーションで示しました。紹介します。

レバレッジ運用

少ない資本金で大きな取引をする事をレバレッジ運用と呼びます。

例えば四半期でリターン1%・リスク10%の金融商品があったとします。この金融商品を使った運用では理論上、2倍のレバレッジをかけると、リターン2%・リスク20%となり、3倍のレバレッジではリターン3%・リスク30%が実現します。

このようにレバレッジはリターンの期待値を引き上げます。一見すると素晴らしい仕組みです。ところがレバレッジをかけた運用は、リスクが大きくなった事で勝率が下がり、投資成果が期待できなくなります。

シミュレーション

下図は乱数シミュレーションです。リスク・リターン別に、リスク資産のリターン分布がどのように経時変化するかをプロットしました。

青:リターン1%(年利4%) リスク10%
緑:リターン2%(年利8%) リスク20%
赤:リターン3%(年利12%) リスク30%

横軸はリターン(倍)です。tは経った時間を示します。

高リスク運用で平均リターンは確かに上がる

プラスリターンの金融商品にレバレッジをかけ、高リスク運用すると、確かに平均リターンは大きくなります。シミュレーションでも平均値(Mean)は上がっています。

時間が経った箇所ではヒストグラムに収まらなくなってしまい正しい平均値が出ていませんが、実際には高いリスクは高い平均リターンを生み出します。この現象は、高リスク投資では大勝ちした少数の投資家が、全投資家のリターンの平均値を上方に牽引するために起こります。

高リスク運用では負けやすくなる

高リスクで資産運用を続けると、負けやすくなります。シミュレーションでも、最もリスクの高い赤線のグループが最も敗者が多く、緑、青はこの順に極端な敗者が少なくなっています。

高リスク投資では負けている投資家は負け続け、死屍累々となります。あっという間に負けます。そして一度負けた投資家が平均値へ復活する確率は極めて小さく、負ける投資家は増え続けます。

高リスク投資で大勝ちした少数の投資家の背後には、多数の負組投資家がいるのです。シミュレーションにおいて、年利12%に惹かれた赤組投資家の多くが、元本を半分以下に減らす様子は目に焼き付けておいて損はありません。

無難な運用をしたいのであれば、レバレッジをかけず、リスクを抑えた運用を行うのが良いでしょう。

まとめ

レバレッジ運用等による高リスクな運用を行えば、リターンの期待値が上がります。ところがそれは、一部の大勝投資家が期待値を引き上げただけであり、多くの投資家は負けて元本を失います。このようにリスクの取り過ぎは、投資の勝率を引き下げる事で、投資成果に悪影響します。無難な運用をしたいのであれば、レバレッジをかけず、リスクを抑えた資産運用を行うのが良いでしょう。

シミュレーションのソースコード

私個人の覚書を兼ね、コードを掲載しておきます。ROOTのgRandom->Gaus関数で乱数を生成し、coutで各人の資産推移を取得(ファイル名aaa.txtは1倍 bbb.txtが2倍 ccc.txtが3倍レバレッジ)、PAWマクロでプロットしました。

長期投資でリスクは減らない リスクはどう経時変化するか?何故「リスクが減る」という主張に騙されるのか?

長期投資でリスクが低減するという金融商品のセールストークがありますが、それは誤りです。運用期間が長くなるにしたがって、リスクは増える性質があります。

リスクがどのように増えるのかを、乱数シミュレーションによる動画を用いて説明します。

リスクとは?

資産運用の用語としてのリスクは、値動きの大きさを意味します。

例えばハイリスクな金融商品とは、大きく値上がりする可能性がある反面、大きく下落する可能性もある金融商品を指します。リスクは必ずしも価格下落の可能性を示す単語ではなく、値動きの大きさを示す指標として利用されます。

リスクはリターン分布の標準偏差で定量的に評価されます。多くの場合、リターン分布は過去の実績から取得します。そして今後もそのような値動きをするだろうと仮定し、将来の値動きの大きさの程度を推定する事になります。

リスク資産の長期保有シミュレーション

金融商品のパラメータ

シミュレーションでは、年間のリスクが20%、平均リターンが4%の金融商品を考えます。このリスク・リターンは、比較的強気な投資家が日本株の値動き特性として期待する値です。

この年間リスク・リターンは、四半期ではリスクは10%程度、リターンは1%程度に相当します。四半期ごとに値動きを観測し、4年間経過するまでのリターン分布を作成しました。

リターン分布の経時変化

動画は2種類です。上図は縦軸一定にした分布の広がり方を確認するため、下図は縦軸を調整しながら分布そのものの様子の詳細を確認するための資料です。横軸はリターンです。

最初の四半期でリターン分布は10%程度の広がりを持ち、時間の経過とともにリターン分布が拡大する様子を確認できます。下図右上のパラメータのmeanはリターンの平均値、RMSはroot mean squareの略で確率変数を二乗した値の平均値の平方根です。このRMSを資産運用におけるリスク値と考えて構いません。

リスクは増え続ける

シミュレーションから明らかなように、時間が経つにしたがってリターン分布は広がり続けます。RMSの値も一方的に大きくなります。長期投資では、リスクは拡大するのです。

時間が経つにつれ、相場が良い時は、増えた資産を元手にもっと多くの利益が出ます。逆に下落相場では資産が毀損し、将来の上昇相場のリターンの元手を失う事で損失が拡大します。このようなメカニズムで、リターン分布は時間とともに広がり続け、リスクは増大し続けます。長期投資でリスクが減る事はありません。

平均リターンがたとえプラスでも、多くの投資家は儲けられない

シミュレーションは、金融商品の平均リターンがプラスといえど、多くの投資家が損をする事がある事を示しています。時間推移を見れば、Mean(平均)の値は確かに増え続けています。にもかからず、(4倍以上に資産を増やす可能性がある一方で、)資産を減らすパターンが多く散見されます。

長期的なリターンは、リターンの平均値に近づくという主張がありますが、これは誤りです。負けている投資家は負け続けます。多くの投資家は負けて元本を失い、平均値に戻れなくなくなります。この性質は逆正弦定理という名前で広く知られています。

「長期投資でリスクが減る」という主張は何が間違っているか

ここまで読めば、長期投資でリスクが減らない事は明らかでしょう。では世間一般の「長期投資でリスクが減る」という主張は何が誤りなのでしょうか。

多くの場合、それらの誤った主張は「1年あたりのリスク」を提示します。「1年あたりのリスク」は「リスク」とは異なる概念です。そして長期投資家の興味は、長期運用におけるリスクであり、リターンである事を考慮すれば、「1年あたりのリスク」は役立たない、無意味な指標です。にもかかわらず、結論部分の「長期投資で報われる」という甘言は魅力的ですので、長期投資でリスクが減るという考えは誤りにもかかわらず、広く支持されています。

シミュレーションのソースコード

私個人の覚書を兼ね、コードを掲載しておきます。ROOTのgRandom->Gaus関数で乱数生成し、coutで取得、PAWマクロでプロットしました。

腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)2015結果

腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)は、公務員と政治家がどの程度腐敗しているかを示す指数です。

指数は複数の機関の報告書を統計処理して算出されます。腐敗の実態は分からないものですので、「認識」されたかどうかに注目して指数は算出されます。

下図は2015年の結果です。濃い赤で塗られた国ほど汚職が多く、薄い黄色の国ほどクリーンです。

画像:Corruption Perceptions Index 2015

それっぽい結果になっています。貧しい国なので汚職が増えるのか、汚職が増えるから貧しいのか、因果関係までは分かりません。

また、特に新興国投資をする際は、不正のリスクにも注意しながら行いたいですね。

参考:腐敗認識指数(wikipedia)