現状維持バイアス(status quo bias) 不利な契約を継続してしまうのは何故か?

現状維持バイアス(status quo bias)とは、未知・未体験のものを避けて、現状維持をしようとする心理効果です。この心理効果は不利な契約を継続してしまう原因や、相場環境に合わない投資手法・ポートフォリオを維持してしまう原因になります。

現状維持バイアスとは?

心理効果の概要

現状維持バイアス(status quo bias)とは、未知・未体験のものを避けて、現状維持をしようとする心理効果です。

言い換えれば、「何もしないことを好む」または「以前の決断に従う」心理効果と事もできます。もちろん変化には手間や費用がかかるものです。とはいえ、その手間・費用が小さく、変化による良い影響が大きい場合でも、現状維持バイアスによって現状維持をしてしまうものです。

現状維持バイアスの原因

現状維持バイアスは、心理学的に説明されます。

以前に自分で行った決断に対して、現状ではその決断は望ましいものでは無くなっていた場合に、認知的不協和(cognitive dissonance)が発生します。この不快感は現状を見ない事で解決しますので、「何もしない」事を決定する一因になります。

また、現状を変えようと行動し失敗すれば後悔すると予想されますが、後悔回避(regret aversion)の心理効果により、現状を維持しようとしてしまいます。その他、埋没費用(sunk cost)が意識され、変更できずに現状維持してしまう事もあります。

現状維持バイアスによる弊害

現状維持バイアスは、各種プランの選択や資産運用へ少なからず影響します。

高い携帯電話代・電気代

格安スマホが提供されつつある現在も、依然として通信大手(NTT・KDDI・ソフトバンク)の高い携帯電話代金を支払い続ける人は少なくありません。この原因の一つは現状維持バイアスです。一旦契約した携帯電話は、解約するのも面倒ですので、思わず現状維持してしまいます。

通信大手が学割を充実させているのは、学生のためではありません。自社の利益のためです。囲い込んだ学生は、解約しなければ将来に渡り安定したキャッシュ・フローを生み出します。

また、電力自由化にもかかわらず、割高な大手電力会社10社(東京電力、関西電力、中部電力、東北電力、九州電力、中国電力、四国電力、北海道電力、北陸電力、沖縄電力)との契約を継続する家計は少なくありません。これも現状維持バイアスによるものです。

資産運用と現状維持バイアス

資産運用では、現状維持を続けるのではなく、必要ならば変更・修正を行うべきです。

たとえ現時点でうまくいっている投資手法・ポートフォリオでも、それに固執し変化を避けていれば、そのうちうまく行かなくなります。投資環境は時々刻々と変化するためです。

必要であれば積極的に、新しいものを取り入れる姿勢は大切です。定期的に「アセット・アロケーションは適切か?」「より有利な条件で代替できる銘柄、金融商品は無いか?」「運用手法は現在でも非有効なのか?」等を点検すべきです。

関連

現状維持バイアスは、1988年に医療保険(health plan)や退職金・年金(retirement programs)の研究により、存在が指摘されました。

概要:Status quo bias(behavioraleconomics.com)

気質効果(disposition effect) 多くの投資家が利益確定で上昇トレンドを逃し、損切りの遅れで傷口を広げるのは何故か?

気質効果(disposition effect)は投資家の手仕舞いの傾向に関する心理効果です。

個人投資家は買値から値上がりした株を売り、値下がりした株を持ち続ける傾向があります。この傾向は心理効果によるもので、気質効果と呼ばれています。

細かい利確を繰り返せば、利益を得る喜びを何度も味わえます。損切りを一度にまとめれば、損失を出してしまった苦しみを味わう時間が減ります。ただし相場にはある程度のトレンドがあるため、気質効果に従った取引は、累積していけば損失に結びつきやすくなります。そのため、気質効果は投資家の運用成績を悪化させる要因として知られています。気質効果は注意すべき心理効果の1つです。

気質効果が起こる理由

気質効果がどのように引き起こされるのかは、効用関数の特徴から説明する事ができます。

効用関数について

まずは効用関数について紹介します。

効用関数の概要

資産運用では、x の利益を得られる嬉しさを数値化した関数 U(x) を効用関数と呼びます。

効用関数の概形

効用関数の概形は下図のようになっています。

横軸 x が得た利益で、縦軸 U(x) が効用(嬉しさ)です。

利益は多ければ多いほど良いです。このため関数は単調増加をしています。ところが関数は単純に利益や損失に比例はせず、利益や損失が大きくなった所で傾きが緩やかに変化します。この現象は、限界効用逓減の法則と呼ばれます。

限界効用逓減の法則により、既に利益が大きい時は、追加利益に対する感覚は薄れます。損失側も同様に、損失額が大きくなると、感覚が麻痺してきて、損失額に比例する程は心理的負担がかからなくなります。

効用関数と気質効果

不要な利益確定・分配金の受け取りをしてしまう理由

複数回の利益確定は、まとめて利益確定するよりも効用を大きくします。

例えば、2x の利益を1回得る場合と x の利益を2回得る場合とを比べます。この2つの場合の利益の総額は同じです。ところが、その効用は、関数が上に凸である事から

U(2x) < 2 U(x)  (0<x

となります。2回に分けて利益を得た方(右辺の方)が、投資家は嬉しくなるわけです。概して投資家は、細かく利益を確定したり、分配金を受け取る方が心理的に満足します。ただし細かな利益確定や頻繁な分配金の受け取りは、上昇トレンドに逆らう事による機会損失や、売買手数料・配当課税の増加に繋がりやすく、投資家のリターンを引き下げる要因になります。

このため、利益確定や分配金の受け取りには十分な注意が必要です。

損切りが遅れる理由・投げ売りをしてしまう理由

まとめて損切りする事は、複数回の細かな損切りよりも効用を大きくします。

例えば、2x の損失確定を1回行う場合と x の損失確定を2回行う場合とを比べます。損失の総額は同じです。ところが、その効用は、関数が下に凸である事から

2U(x) < U(2x)  (x<0

となります。損失確定は1回にまとめた方(右辺の方)が、マイナスの効用の絶対値が小さく、つまり心理的負担が軽くなります。より一般的に、細かく損切りするよりも、まとめて損切りをする方が心理的な負担が小さく済みます。

この性質は、損切りの遅れや投げ売りを誘発し、投資家のリターンを引き下げる事があるため、注意が必要です。

気質効果を実験により検証した例

下記の論文は、被験者を集め危機回避度と気質効果の発現を分析し、プロスペクト理論における損失回避が気質効果の原因の一つであることを示しています。

利益確定は投資家としてのプライドが満たされます。損切りは間違いを認める事になり難しくなります。気質効果により、投資家は「上昇銘柄を細かく利確」をし、「下落銘柄はまとめて損切り」をしてしまいやすくなります。

気質効果により損をする投資家

多くの投資家は、直接的または間接的に気質効果による悪影響を受けます。

素人の個人投資家

素人の個人投資家は、気質効果によって上がった銘柄を売り、下がった銘柄を持ち続けます。こうして素人の個人投資家は、利益確定によって上昇トレンドを逃し、損切りの遅れによって下降トレンドを被弾します。

素人投資家は銘柄選定が下手くそで負けるわけではなく(勿論それも一因ではあるでしょうが)、主に利益確定によって上昇トレンドを逃す事で負けるのです。

インデックス投資家

インデックス投資家は、間接的に気質効果の悪影響を受けます。

インデックス投資家が享受する市場平均リターンとは、全ての市場参加者の平均です。ところが市場には、気質効果に翻弄される間抜けな投資家が多くいます。間抜けな投資家の売買は、インデックス投資家のリターンを引き下げます。

ドル・コスト平均法で積み立てる投資家

気質効果が利益確定を誘発するため、株価上昇はゆっくりと進み、株価下落は一気に進行します。登り百日、下げ十日という投資格言がある程です。

その結果、ドル・コスト平均法で積み立てる投資家は、高値圏で積み立てを行う可能性が高くなります。そしてコツコツ積み立てた資産がドカンと下落する事になるわけですが、この背景には、気質効果に煽られる多くの投資家の姿があります。

まとめ

個人投資家は買値から値上がりした株を売り、値下がりした株を持ち続ける傾向があります。この傾向は心理効果によるもので、気質効果と呼ばれています。

気質効果は効用関数の特性から説明する事ができます。

複数回の利益確定は、まとめて利益確定するよりも効用が大きくなります。そのため投資家は頻繁に利益確定をしてしまいがちです。ところが頻繁な利益確定は上昇トレンドを逃し、売買手数料の支払いが多くなるため、投資パフォーマンスを低下させる原因となります。

また、まとめて損切りする事は、複数回の細かな損切りよりも心理的負担が少なくて済みます。そのため投資家は損切りが遅れ、結果として損失が拡大、最後は投げ売りをしてしまいます。

気質効果は、投資家が十分警戒すべき重要な心理効果の1つです。

楽観バイアス(Optimistic Bias) ポジティブに考えてしまう事で破産を招く心理効果

楽観バイアスとは?

人間がポジティブで希望的に物事を考える傾向を、楽観バイアス(Optimistic Bias または Optimism Bias)と呼びます。人はポジティブな出来事が起こる可能性を過大評価し、否定的な出来事が起こる可能性を過小評価します。言い換えれば人々は将来について過度に自信を持つ傾向があります。

楽観バイアスの例:宝くじに当たりやすいと思う

例えば、ある人は宝くじが大当たりする確率は、事故で自分が死ぬ確率よりかは高いと考えるでしょう。ところが実際の国内統計では、宝くじの1000万円以上の当選者は、年間で3339人(2012年)で3時間に1人程度、一方で交通事故で死ぬのは4,113人(2014年)で2時間に1人程度です。人は宝くじで高額当選者するよりも、交通事故で死にやすいわけです。

宝くじ億万長者 18時間に1人のペースで日本のどこかで誕生

平成26年中の交通事故死者数(24時間以内)

このように、人間にはポジティブで希望的に物事を考える傾向があります。

楽観バイアスの影響

楽観バイアスによる不合理な傾向は、長所と短所の両方をもたらします。

良い影響

自信過剰は自尊心と野心を高めます。また、ポジティブに考えられるからこそ、いろいろな挑戦ができるものです。

悪い影響

楽観バイアスは、無理な計画や、財政難、事故、およびその他の問題にもつながります。老後に破綻する人は大抵、楽観バイアスにより土地や株は最後に値上がりをするという根拠なき自信を持っている事でしょう。

富裕層になれない人の9割は、「楽観バイアス」人生

Optimistic Bias

ピーク・エンドの法則(peak-end rule) 投資判断を撹乱する心理効果。印象に残っているのはピークと最後だけ!?

ピーク・エンドの法則とは?

法則の概要

ピーク・エンドの法則は、過去の経験の見え方に関する法則です。

経験は、

1.それがピーク時にどうであったか?
2.最後がどう終わったか?

の2点によって、判定される傾向があります。一方でピークと最後以外の情報の大部分は捨てられて使われにくくなります。この法則によって、「見えにくくなる情報」に、敢えて注意する事が大切です。

法則の由来・実験と応用

ピーク・エンドの法則はダニエル・カーネマン教授が1999年に発表した法則です。ダニエル・カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受賞した心理学者・行動経済学者で、行動ファイナンス理論及びプロスペクト理論で有名です。

ダニエル・カーネマン

ピーク・エンドの法則は実験でも示され、資産運用の他にも仕事術や恋愛の分野で言及・応用されています。

販売の心理学:ピークエンドの法則――売上げが上がらないのは、アレが原因だった

株式投資での応用

ピーク・エンドの法則は、株式投資で印象的な出来事と最新の出来事に過度に注目してしまう事を教えてくれます。

ピークの出来事に注目してしまう

ファンダメンタルズ的には、最高益や利益伸び率の最大値が銘柄を印象づけます。テクニカル的には、保有期間中の高値や安値が印象に残ります。その他の場面での情報は、忘れやすくなります。

確かにそうですね。これは投資家の実感とも矛盾しないと思われます。とは言え、印象に残りにくい部分、つまり普段・平生はどうであったか、についても注意したいところです。

最後の出来事に注目してしまう

直近の暴騰・暴落や終値は、注目しやすい材料です。

ピーク・エンドの法則と投資行動

ですが、より多くの情報を検証するために、直近以外の企業の様子を考えるのは大切です。注目しにくい過去の情報に、敢えて意識的に焦点を当ててみる事は、投資銘柄の理解に役立ちます。

アンカリング効果(Anchoring effect) 投資家の投資判断は偏り、そして間違えるのは何故か?

アンカリングと呼ばれる心理効果があります。この効果は、ある特定の情報を比較基準としてしまう事で、評価・判断に偏りが生じてしまう現象を指します。資産運用を行う際、この心理効果に惑わされないように注意しなければなりません。

当記事では、アンカリング効果の例について説明をし、アンカリング効果の防止法を紹介します。

アンカリング効果の例

「マハトマ・ガンジーが死んだ時は何歳だったか?」という質問をします。事前に「死んだのは9才より前か後か?」と聞いたグループと、事前に「死んだのは140才より前か後か?」と聞いたグループとでは、前者が平均50才、後者が平均67才となりました。大きな違いですね。

上記の実験結果は、最初の質問の値が、次の質問の値に影響を与えた例になります。このように、参照点(例の場合9才もしくは140才)が設定される事で、評価・判断へ影響する心理効果を、アンカリングと呼びます。

アンカリングの名前の由来は、参照点を錨(アンカー)に見立てた所から来ています。

資産運用におけるアンカリング効果

下記のように、資産運用の世界でも、アンカリングの影響かと思えるような事が多く挙げられます。気をつけていきたいですね。

本当は安くない信託報酬

信託報酬1%のアクティブ・ファンドを見た後で、信託報酬0.4%のインデックス・ファンドを見てみると、低コストな金融商品に見えてしまいます。ですが(ある程度銘柄分散できる資金があれば)適当に選んだ個別銘柄を長期保有した方が、断然低コストで運用が出来てしまいます。

直近の高値・安値は印象に残りやすいが・・・

直近の高値・安値は、金融商品の売買でよく意識されます。取引価格が最高値より安いと安く見えますが、実際は依然として高値圏かも知れません。逆に取引価格が底値より高いと高く見えますが、実際はまだまだ安値圏かも知れません。直近高値・安値に振り回されず、正しい価値を見積もりたいものです。

アンカリング効果を防ぐには?

アンカリングはヒューリスティックの一種の効果であり、至る所に存在します。このため、完全に防ぐのは難しいとされています。ですが、このアンカー状態を脱するため、努力をする事ができます。

情報を集め、比較する事は、アンカリングを防ぐのに有効です。もしも家電量販店でアンカー状態になり、高い商品が安く見えているのであれば、他のお店に行き、情報を集めます。そうすれば新しい価格の基準を取得する事ができるので、より適切な価値比較ができるようになってきます。

引用・参照

この記事は、下記の記事の内容を抄訳・参照しています。

Anchoring Effect: How The Mind is Biased by First Impressions