気質効果(disposition effect) 多くの投資家が利益確定で上昇トレンドを逃し、損切りの遅れで傷口を広げるのは何故か?


気質効果(disposition effect)は投資家の手仕舞いの傾向に関する心理効果です。

個人投資家は買値から値上がりした株を売り、値下がりした株を持ち続ける傾向があります。この傾向は心理効果によるもので、気質効果と呼ばれています。

細かい利確を繰り返せば、利益を得る喜びを何度も味わえます。損切りを一度にまとめれば、損失を出してしまった苦しみを味わう時間が減ります。ただし相場にはある程度のトレンドがあるため、気質効果に従った取引は、累積していけば損失に結びつきやすくなります。そのため、気質効果は投資家の運用成績を悪化させる要因として知られています。気質効果は注意すべき心理効果の1つです。

気質効果が起こる理由

気質効果がどのように引き起こされるのかは、効用関数の特徴から説明する事ができます。

効用関数について

まずは効用関数について紹介します。

効用関数の概要

資産運用では、x の利益を得られる嬉しさを数値化した関数 U(x) を効用関数と呼びます。

効用関数の概形

効用関数の概形は下図のようになっています。

横軸 x が得た利益で、縦軸 U(x) が効用(嬉しさ)です。

利益は多ければ多いほど良いです。このため関数は単調増加をしています。ところが関数は単純に利益や損失に比例はせず、利益や損失が大きくなった所で傾きが緩やかに変化します。この現象は、限界効用逓減の法則と呼ばれます。

限界効用逓減の法則により、既に利益が大きい時は、追加利益に対する感覚は薄れます。損失側も同様に、損失額が大きくなると、感覚が麻痺してきて、損失額に比例する程は心理的負担がかからなくなります。

効用関数と気質効果

不要な利益確定・分配金の受け取りをしてしまう理由

複数回の利益確定は、まとめて利益確定するよりも効用を大きくします。

例えば、2x の利益を1回得る場合と x の利益を2回得る場合とを比べます。この2つの場合の利益の総額は同じです。ところが、その効用は、関数が上に凸である事から

U(2x) < 2 U(x)  (0<x

となります。2回に分けて利益を得た方(右辺の方)が、投資家は嬉しくなるわけです。概して投資家は、細かく利益を確定したり、分配金を受け取る方が心理的に満足します。ただし細かな利益確定や頻繁な分配金の受け取りは、上昇トレンドに逆らう事による機会損失や、売買手数料・配当課税の増加に繋がりやすく、投資家のリターンを引き下げる要因になります。

このため、利益確定や分配金の受け取りには十分な注意が必要です。

損切りが遅れる理由・投げ売りをしてしまう理由

まとめて損切りする事は、複数回の細かな損切りよりも効用を大きくします。

例えば、2x の損失確定を1回行う場合と x の損失確定を2回行う場合とを比べます。損失の総額は同じです。ところが、その効用は、関数が下に凸である事から

2U(x) < U(2x)  (x<0

となります。損失確定は1回にまとめた方(右辺の方)が、マイナスの効用の絶対値が小さく、つまり心理的負担が軽くなります。より一般的に、細かく損切りするよりも、まとめて損切りをする方が心理的な負担が小さく済みます。

この性質は、損切りの遅れや投げ売りを誘発し、投資家のリターンを引き下げる事があるため、注意が必要です。

気質効果を実験により検証した例

下記の論文は、被験者を集め危機回避度と気質効果の発現を分析し、プロスペクト理論における損失回避が気質効果の原因の一つであることを示しています。

利益確定は投資家としてのプライドが満たされます。損切りは間違いを認める事になり難しくなります。気質効果により、投資家は「上昇銘柄を細かく利確」をし、「下落銘柄はまとめて損切り」をしてしまいやすくなります。

気質効果により損をする投資家

多くの投資家は、直接的または間接的に気質効果による悪影響を受けます。

素人の個人投資家

素人の個人投資家は、気質効果によって上がった銘柄を売り、下がった銘柄を持ち続けます。こうして素人の個人投資家は、利益確定によって上昇トレンドを逃し、損切りの遅れによって下降トレンドを被弾します。

素人投資家は銘柄選定が下手くそで負けるわけではなく(勿論それも一因ではあるでしょうが)、主に利益確定によって上昇トレンドを逃す事で負けるのです。

インデックス投資家

インデックス投資家は、間接的に気質効果の悪影響を受けます。

インデックス投資家が享受する市場平均リターンとは、全ての市場参加者の平均です。ところが市場には、気質効果に翻弄される間抜けな投資家が多くいます。間抜けな投資家の売買は、インデックス投資家のリターンを引き下げます。

ドル・コスト平均法で積み立てる投資家

気質効果が利益確定を誘発するため、株価上昇はゆっくりと進み、株価下落は一気に進行します。登り百日、下げ十日という投資格言がある程です。

その結果、ドル・コスト平均法で積み立てる投資家は、高値圏で積み立てを行う可能性が高くなります。そしてコツコツ積み立てた資産がドカンと下落する事になるわけですが、この背景には、気質効果に煽られる多くの投資家の姿があります。

まとめ

個人投資家は買値から値上がりした株を売り、値下がりした株を持ち続ける傾向があります。この傾向は心理効果によるもので、気質効果と呼ばれています。

気質効果は効用関数の特性から説明する事ができます。

複数回の利益確定は、まとめて利益確定するよりも効用が大きくなります。そのため投資家は頻繁に利益確定をしてしまいがちです。ところが頻繁な利益確定は上昇トレンドを逃し、売買手数料の支払いが多くなるため、投資パフォーマンスを低下させる原因となります。

また、まとめて損切りする事は、複数回の細かな損切りよりも心理的負担が少なくて済みます。そのため投資家は損切りが遅れ、結果として損失が拡大、最後は投げ売りをしてしまいます。

気質効果は、投資家が十分警戒すべき重要な心理効果の1つです。

株を売るタイミング いつ売るか?なぜ売るか?


株を売るタイミングについて投稿します。

「買った理由が消えた時」が売り時です。ファンダメンタルズ分析を重視していても、テクニカル分析を重視していても変わりません。

売りは重要な投資活動

株を売る事は重要です。

投資の利益は、「支払い金額」と「受け取り金額」の2つの要素で決まります。そのため、株を売り換金するタイミングは、株を買うタイミングと同様に、投資利益に対して決定的な影響があります。

買った理由が消えた時に売る

株を売るタイミングは、買った理由が消えた時と言われています。

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ファンダメンタルズを理由に買った場合

ファンダメンタルズを根拠に、「業績の水準と比べて株価が割安だ」と考えて株を買ったのであれば、株が割安でなくなったら売却をします。

株価が割安でなくなる要因は2つあります。

株価が上がったら売る

目論見通りに株価が値上がりし、割安さが解消されたのであれば、それが売り時です。

株価はファンダメンタルズで説明できない程高くなる事がありますが、多くの場合それは将来イナゴタワー(※1)を形成すると考えられます。一般的に、株価が割高だと考えられる時に売り抜ける事が推奨されます。

一方業績が予想以上に上方修正され、株価は上がったが依然として割安だと考えられるのであれば、目標株価を上げ、保有を続けても良いでしょう。

※1 イナゴタワー:タワーのような形状の株価チャートをイナゴタワーと呼びます。短期筋により大きく買われ暴騰し、その後に暴落する事で、イナゴタワーは形成されます。

下方修正で売る

株価はそのままだとしても、ファンダメンタルズが悪い方向に動いた時も、割安さが解消されます。例えば1株利益が下がればPERは上がります。

この時、買った理由が無くなるため損切りをすべきです。

業績の予想外の下方修正は、分析が間違っていた事を意味します。間違いが明らかになったタイミングで、投資プランに修正をかける事は大切な取り組みです。

テクニカル分析で買った場合

テクニカル分析で株を買ったのであれば、値動きに合わせて売却をします。

チャートが崩れたら売り

チャートを根拠に、上がると考えて株を買ったのであれば、チャートが崩れたら売却をします。

リバランス売り

ポートフォリオの資産配分を決め、メンテナンスをしているのであれば、「定期的」または「乖離が大きくなったタイミング」でリバランス売買を行います。

資産配分そのものを変更する際も、リバランス売買を行います。

なお、売却する際はリスク・リターンの変化やポートフォリオの他の資産との相関も考えておきます。

その他の売りのタイミング

他にもっと良い株がある

他に良い株が見つかった時は、保有株の売り時です。

今保有する金融商品が悪いものではないとしても、他にもっと良い金融商品があれば乗り換えて多くの利益を追求すべきです。

節税のため

節税効果がある場合は、保有株の売り時です。

含み損を持つ銘柄を売り、損益通算が出来る場合などは、損切りが投資家の総合的なパフォーマンスの改善に繋がります。

イベント要因

買収される時

保有株が買収される時は売り時です。

買収では巨大な買い手が現れます。そのため株価は多くの場合値上がりします。そのタイミングで売ってしまうのが良いと考えられます。

倒産した時

近い将来に株券が価値を失うと判明する事があります。その時が売り時です。

勿論、倒産時は売りが殺到し安値での損切りになりますが、それでも買い手がいるのであれば現金を回収します。

売却時に考慮すべき事

売却時に注意すべき事柄をまとめます。

売るか売らないか、迷ったら売る

迷ったら売るべき、だと考えます。

リスク資産のリターンは、リスクと比べて随分と小さな値になっています。専門家の中でも最適なアセット・アロケーションがバラバラで、共通の見解が存在しないのもこのためです。

そして平均リターンがリスクと比べて小さい事は、「値上がりした資産は売っておくのが良い」と示唆しています。

投資心理を考慮する

含み益の資産は売りやすく、含み損の資産は売りにくいです。

含み損の資産の損切りは、自身の投資判断の間違いを認める事になり、投資家にとって抵抗がある事が多いです。売る理由があれば、利益がある内に売りたいものです。

ただし、売る根拠は明確にしておく必要があります。投資家には「上昇銘柄を細かく利確」をし、「下落銘柄はまとめて損切り」をしてしまいやすくなる心理効果が働きます。この心理効果は、気質効果(disposition effect)と呼ばれています。

細かい利確は、利益を得る喜びを何度も味わえます。損切りをまとめれば、損失を出してしまった苦しみを味わう時間が減ります。ただし相場にはある程度のトレンドがあるため、気質効果のみに従った論理的根拠のない取引は、累積していけば損失に結びつきやすくなります。その点には注意が必要です。

売買手数料

売買の際には、証券会社へ売買手数料を支払う必要が出ます。手数料は積み重なれば多額となり、投資成績に悪影響します。売却益課税があれば、税金の支払いも必要になります。

売買を行う際に、手数料に注意すべきです。

ただし、手数料を気にしすぎて機会損失に繋がるのは避けなければなりません。実は税金も、最終的に多く支払った投資家の方が、投資家として成功しています。多く儲けているからです。

まとめ

この記事では株を売るタイミングについて記述しました。

「買った理由が消えた時」が売り時です。ファンダメンタルズ分析を重視していても、テクニカル分析を重視していても変わりません。

その他、「他にもっと良い株がある」「節税のため」「イベント要因」も売り時となります。

なお、売却時は心理効果や手数料等を考慮する事が望ましいです。